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個人開発をはじめたころ、Lilyはずっとこう思っていました。「本当にいいものを作れば、きっと伝わる。」なんとなくそういう信念みたいなものがあって、逆に言えばそれを信じることで、漠然とした不安を押しつぶしながら作り続けていたのかもしれません。 でも最初の1円を手にするまでに、その信…
この記事が良かったら
「チップをリクエスト」で著者にチップの受け取り設定をお願いできます
個人開発をはじめたころ、Lilyはずっとこう思っていました。「本当にいいものを作れば、きっと伝わる。」なんとなくそういう信念みたいなものがあって、逆に言えばそれを信じることで、漠然とした不安を押しつぶしながら作り続けていたのかもしれません。 でも最初の1円を手にするまでに、その信念はあちこち揺らぎました。揺らいだというより、静かに崩れていった、という感じです。ショックというほど劇的なものではなかったけれど、「あ、そうか」という、少し恥ずかしくて、少し悲しい気持ちが積み重なっていきました。 この記事は、そのころのことを書いています。失敗談というほど劇的なものではないけれど、同じようなところでつまずいている人がいたら、少し楽になるかもしれないと思って。
最初にリリースしたプロダクトは、自分でも「これは便利だな」と思えるものでした。使い方もシンプルで、デザインも丁寧に仕上げて、説明文も何度も書き直して。準備できることは全部やった気がしていました。
リリースボタンを押したとき、少し手が震えたのを覚えています。「あとは広まるのを待つだけだ」という、根拠のない安心感があったんです。
でも翌日、翌々日と経っても、ほとんど何も起きませんでした。
Xに流れていくタイムライン、誰かのバズった投稿、知らないアカウントからの「使ってみた」レポート。自分のプロダクトの話は、どこにも出てきません。ダッシュボードを開くと、アクセス数は片手で数えられる程度で、その全員がたぶん自分と、リンクを送った友人だったと思います。
そのとき気づいたのは、「いいもの」というのは作った人の感覚であって、知らない人にとっては存在しないも同然だということです。
インターネットの海には毎日たくさんのものが流れていて、誰かに見つけてもらうためには、そもそも「ここにありますよ」と言わなければならない。当たり前のことなのに、なぜかリリースするまでそれが実感できていませんでした。
作ることに集中していると、「作る=届ける」という気がしてくるんですよね。でも実際は、作ることと届けることはまったく別の仕事で、どちらも手を抜けない。
少し正直に言うと、発信することへの抵抗がありました。
「宣伝っぽくなりたくない」「自分から売り込むのはかっこ悪い」「まずは黙って作ったものを出す」という気持ち。クリエイターとしてのプライドというか、いや、プライドというより照れ、かもしれません。
告知ツイートを書いては消して、書いては消して。Noteの下書きも途中まで書いて放置して。「まだ機能が足りない」「もう少し整えてから」と理由をつけて、発信を先送りにしていました。
今思えば、それは「見てほしいけど、ダメだと言われるのが怖い」という気持ちだったと思います。
発信しなければ、誰にも否定されません。静かに作り続けていれば、傷つかない。でも同時に、誰にも見てもらえない。その矛盾の中で、ぐるぐるしていました。
発信と収益って、技術の話というより、ここの心の話なんじゃないかと、今はそう感じています。
有料プランを設けてから、最初の課金通知が来たのは、リリースから数週間後のことでした。
金額は小さいものでした。でも通知を見た瞬間、Lilyは思わず椅子から立ち上がりました。知らない誰かが、Lilyの作ったものにお金を払ってくれた。それだけのことなのに、なんとも言えない気持ちになりました。嬉しいとか誇らしいとかじゃなくて、もっと静かな、「あ、本当に届いたんだ」という感覚です。
その後、その方から短いメッセージが来ました。「こういうの探してたんです」という一言。
機能の話でも、デザインの話でもなかった。「探してた」という言葉。誰かが探していて、見つけてくれて、選んでくれた。そのことが、すごく胸に刺さりました。
逆に言えば、発信していなければ、この人には見つけてもらえなかった。どんなに「探していた」人がいても、存在を知らなければ選びようがない。当たり前なんですが、この体験ではじめて腹落ちした気がします。
この経験を経て、少し整理された考えがあります。
個人開発で収益を得ることと、いいものを作ることは、どちらも必要で、でも別のスキルが要る。作ることに一生懸命になると、伝えることがおろそかになりがちで、それは技術力の問題じゃなくて、優先順位の問題だということ。
そしてもう一つ。発信することは、自慢でも売り込みでもなくて、「こういうものを作りました」という報告に過ぎない、ということです。
これはある方に言われたことなのですが、「自分のプロダクトを必要としている人に届けないのは、その人への機会損失でもある」という視点が、Lilyにはなかったと気づきました。
発信しないことは謙虚ではなくて、ただの臆病かもしれない。その言葉が、じわじわと効いています。
劇的な転換期があったわけではないのですが、少しずつ変えていったことがあります。
まず、リリースのタイミングで必ずXに投稿するようにしました。宣伝っぽくならないように気をつけながら、「作った経緯」「どんな人に向けたのか」「どこに悩んだか」を短く書く。機能の羅列ではなくて、作り手の話として。
次に、定期的にプロダクトの近況を書くようにしました。アップデートしたこと、ユーザーさんに言われて気づいたこと、思ったより難しかったこと。小さいことでも、書くと反応がもらえることがあって、それがまた次の燃料になりました。
Lilyは正直、SNSのノリが得意ではありません。バズを狙う投稿とか、フォロワーを増やすテクニックとか、そういう方向には今も気が向かない。
でも「自分のプロダクトのことを、自分の言葉で書く」だけなら、できます。それだけで十分だと今は思っています。規模は小さくても、必要としている誰かに届けばいい。そういう気持ちで続けています。
今でも発信が得意かと聞かれると、自信を持ってイエスとは言えません。告知を書くとき、まだちょっとためらいます。「これ、いるかな」「うるさいかな」と思いながら、それでも投稿する。その繰り返しです。
でも、最初に感じていた「作れば伝わる」という幻想と、今の自分には少し差があると思っています。あのころは作ることで完結していた。今は、作ることの先に届けることがあると知っている。それだけで、少し違う場所に立てている気がしています。
個人開発の収益って、アルゴリズムでも運でも、完全には制御できないものです。でも、届ける努力をするかしないかは、自分で選べる。Lilyはそこに気づくのが、少し遅かっただけで、今からでも遅くはなかったし、あなたも今からでぜんぜん遅くないと思います。
同じようにぐるぐるしている人がいたら、少しだけ前に進む気持ちになれたら嬉しいです。
Lily(@bokuwalily)― 個人開発者。AIと二人三脚で、iOSアプリやWebサービスを作っています