この記事が良かったら
「チップをリクエスト」で著者にチップの受け取り設定をお願いできます

自分のアプリに、はじめて課金した日のことを書こうと思います。 作った本人が、自分のプロダクトの有料プランを購入する。外から聞けば「なぜそんなことを?」と思われるかもしれません。でもあの夜、画面の前に座って購入ボタンを押したとき、Lilyの中には想像していなかった感情がありました。…
この記事が良かったら
「チップをリクエスト」で著者にチップの受け取り設定をお願いできます
自分のアプリに、はじめて課金した日のことを書こうと思います。 作った本人が、自分のプロダクトの有料プランを購入する。外から聞けば「なぜそんなことを?」と思われるかもしれません。でもあの夜、画面の前に座って購入ボタンを押したとき、Lilyの中には想像していなかった感情がありました。誇りとも、戸惑いとも、少し怖いような気持ちとも言えない、不思議な感触でした。 これは技術的な話でも、売上の話でも、マーケティングの話でもありません。「自分が作ったものに、本当にお金を払う価値はあるのか」という問いに、作り手のまま正直に向き合った体験です。同じく一人でプロダクトを作っている方に、少しでも届けばと思って書きます。
Lilyが作っていたのは、複数のサービスの情報をまとめて確認できる小さなダッシュボードツールでした。最初はすべて無料で公開するつもりでしたが、APIの利用料が月々かかることに気づいて、「このままでは長続きしない」と思い、有料プランを設けることにしました。
価格はシンプルに月額980円。無料枠では主要機能の一部に上限をつけて、有料になるとその制限が外れる、という構成にしました。決済フローを組んで、価格説明のページを作って、ひとまず「有料プラン、できた」という状態になりました。
リリース直後、いくつかの問い合わせが来ました。「有料プランに興味があります」「この機能は無料で使えますか」という声でした。嬉しかったです。でもその時点で、Lily自身はまだ有料プランに入っていませんでした。
ここで、あることに気づきました。
Lilyは設計者であり、実装者であり、デプロイした人間でした。でも「お金を払うユーザー」としての視点は、実は一度も持ったことがありませんでした。自分が作ったものだから、機能の意味はぜんぶわかる。でも「知らない人がこのプランを見たとき、価値を感じるか」は、また別の話です。
作り手は「機能が何をするか」はわかっています。でも「それがどれくらい嬉しいか」は、使う立場に立ってみないとわからない部分があります。有料ユーザーが課金する瞬間に何を感じているのか、Lilyは想像したことはあっても、体験したことがありませんでした。
ある夜、ふと「自分で買ってみよう」と思いました。理由は明確ではありませんでした。ただ、何かを確かめたかったのだと思います。
購入ボタンの前で、5秒ほど止まりました。
「これはテストじゃなくて本当にお金が出ていく」という実感と、「作り手として恥ずかしくないか」という問いが、同時に浮かんできました。自分が作ったものに、本当にお金を払う価値があるか?という問いでもありました。
Lilyは普段、映画を一本観ると1,400〜1,800円かかります。外食すれば1,000円はすぐ飛びます。それに比べて980円は安い。でも「自分のアプリ」となると、なぜかその判断がうまくできませんでした。作り手の欲目なのか、それとも作り手ゆえの過小評価なのか、自分でもよくわかりませんでした。
結局、押しました。課金が完了して、メールが届きました。自分が作った確認メールでした。「ご購入ありがとうございます」と書いてあって、少し笑いました。おかしな感覚でした。自分に感謝する文章を、自分に送っている。個人開発の孤独と滑稽さが、一行に詰まっているような気がしました。
有料プランに入ってから、いくつかのことに気づきました。
機能制限を超えた部分を自分で触って、はじめて気づいた不具合がありました。無料枠の範囲でしかテストしていなかったので、有料機能のエッジケースを実際には確認できていなかったのです。課金して5分で「あ、ここ直さないと」という箇所が見つかりました。
恥ずかしかったです。「ちゃんとテストした」と思っていたのに、使う立場に立って初めてわかる不具合があった。これはおそらく、有料ユーザーの誰かがすでに経験していたはずです。
購入完了後のリダイレクト先が、ちょっとわかりにくい画面でした。「もう有料になったの?どこで確認できる?」という状態です。自分で作ったくせに、そこで一瞬迷いました。これは他のユーザーも絶対に迷うはずです。翌日すぐ修正しました。
一番の発見は、「自分がお金を払ったら、もっとちゃんと使いたくなった」ということです。設計者としての自分ではなく、980円払ったユーザーとしての自分が、ログインして、機能を触って、「ここもう少しこうなったら便利なのに」と素直に感じました。
それまでは「このくらいでいい」と思っていた部分に、急に不満が生まれました。お金を払うと、目線が変わるのだと思います。
自分のアプリに課金してみて、一番変わったのは「次に何を作るか」の優先順位でした。
それまでのLilyは、「この機能があるから価値があるはず」という設計者の論理で考えていました。でも課金した後は、「使ってみて、続けたいと思うか」という使い手の感覚で考えるようになりました。
次のアップデートで手をつけたのは、新機能の追加ではありませんでした。「もう少しわかりやすくなったら使いやすいのに」と感じた部分の改善でした。それは設計者として「あって当然」と見過ごしていた部分であり、ユーザーとして「ここが足りない」と感じた部分です。
作るものの優先順位が、少し変わりました。ロードマップに並んでいた新機能は、いったん後回しになりました。「使われる土台を整える」ほうが先だ、と思えたからです。
980円。Lilyの答えはYesです。でもそれは「機能が充実しているから」ではなく、「この980円を払わなければ気づかなかったことがあったから」です。
不具合が1つ直りました。案内の画面が1つ改善されました。次に作るものの優先度が変わりました。そして「自分が作ったものに、少し胸を張れるようになった」という感覚が、静かに残りました。
個人開発をしていると、誰にも見られていないテストを繰り返すような時間が長く続きます。「本当にこれで合っているのか」「誰かに使ってもらえるのか」と不安になることもあります。手を動かしながら、でも「使われている実感」がなくて、宙ぶらりんな気持ちで過ごす夜もあります。
自分のアプリに課金してみることは、そのアプリへの「ちゃんと見た」という宣言に少し近い気がしました。お金を払う覚悟で、正直に向き合う。それだけで、作り手としての視野が少し広がりました。
ひとつ作ったら、一度課金してみる。Lilyはこれを、次からの習慣にしようと思っています。自分のプロダクトの、最初の正直なユーザーになること。それは思っていた以上に、意味のある時間でした。
Lily(@bokuwalily)― 個人開発者。AIと二人三脚で、iOSアプリやWebサービスを作っています
🎁 最後まで読んでくれたあなたへ、無料の特典があります: LINEで「自動化」と送って受け取る(実装テンプレ7本)
Lily(@bokuwalily)― 個人開発者 / AI導入・業務自動化のコンサルタント。AIと二人三脚でiOSアプリやWebサービスを作りながら、企業のAI導入と自動化の相談を受けています
🖥️ 制作物・記事 → bokuwalily.com
🐙 OSS → github.com/bokuwalily
🌍 最新情報・お問い合わせ → X @bokuwalily