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先月、実家に帰ったとき、母にアプリのことを聞かれました。「最近、何か作ってるんだって?」という、よくある何気ない質問でした。でも、いざ答えようとしたら、うまく言葉が出てこなかったんです。 「えっと……インスタとかXで、自動で投稿できるやつ、みたいな……」と言いかけて、止まりました…
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「チップをリクエスト」で著者にチップの受け取り設定をお願いできます
先月、実家に帰ったとき、母にアプリのことを聞かれました。「最近、何か作ってるんだって?」という、よくある何気ない質問でした。でも、いざ答えようとしたら、うまく言葉が出てこなかったんです。 「えっと……インスタとかXで、自動で投稿できるやつ、みたいな……」と言いかけて、止まりました。それで何?という顔をしている母を前に、Lilyははじめて気づいたんです。自分は何年も「作ってきた」のに、「なぜ作るのか」を、一言でも説明できる言葉を持っていなかったんだって。 このエッセイは、その夜から始まった小さな出来事の話です。コードのことでも、技術のことでもありません。でも、同じように「作ること」を続けている方には、もしかしたら刺さるものがあるかもしれないと思って、書くことにしました。
母の問いかけは、悪意のかけらもないものでした。ただ純粋に、娘がやっていることを知りたかっただけです。でも、その「役に立つの?」という一言は、予想外にLilyの胸に刺さりました。
正直に言えば、そのとき頭の中は真っ白でした。
「インスタに自動でいいねしてくれるやつ」と言えばいいのか。「フォロワーを増やすツール」と言えばいいのか。でもどれも、何か違う気がして。技術的な説明をしようとすると、すぐに「ちょっと難しいな」という顔になる。じゃあ目的から話そうとすると、今度は自分でも「それって本当に目的なのか?」という疑問が湧いてくる。
その夜、Lilyは布団の中でずっと考えていました。自分は一体、何のためにこれを作っているんだろう、と。
個人開発をしている方の中には、「世界を変えたい」「課題を解決したい」という強い動機を持っている人もいると思います。でも正直に言うと、Lilyはそんなに格好いい動機じゃありませんでした。
最初に作ったツールは、自分が面倒くさかったから作ったものでした。毎日同じ時間に同じ作業をするのが嫌で、「これ、なんとかならないかな」と思って作り始めた。そうしたら、気づいたら動くものになっていた。その「あ、動いた」という感覚が嬉しくて、また作った。その繰り返しでした。
だから「誰かのために」とは、なかなか言えませんでした。強いていえば、「自分のために」。でもそれを親に言うのは、なんだか恥ずかしくて、うまく言葉が出てこなかったんです。
でも今なら思います。「自分のために」は、弱い動機じゃないんだって。
自分が本当に困っていること、本当に面倒くさいと感じていること——そこを起点にするから、作り続けられるんだと思います。誰かに言われたわけでも、流行っているからでもなく、自分が「あったらいいな」と思ったから作る。その動機は、どんな綺麗な言葉より、ずっと長持ちします。
でも当時のLilyは、それを言語化できていませんでした。
母への説明を諦めたわけではなく、その後も何度かトライしました。食事中に「ねえ、さっきのやつだけど」と切り出したり、翌朝お茶を飲みながら「ちょっと違う言い方するね」と試したり。
「プログラムっていうのがあってね、コードを書くと機械がそれを読んで動かしてくれるんだよ」——これは3秒で撃沈しました。母は「へえ〜」と言いましたが、目が泳いでいました。
「フォロワーを増やすためのツールで、SNSの投稿とかいいねを自動でやってくれるやつ」——これも何か違いました。「商売してるの?」と聞かれて、「違う違う」となってしまいました。
3回目のとき、Lilyはちょっと諦めて、正直に話してみました。
「毎日同じことを繰り返すのが面倒くさくて。自分でやると忘れるし、疲れてるときは特に。だから、代わりにやってくれる仕組みを作ったんだよね。別に誰かに頼まれたわけじゃないんだけど、できたら嬉しくて。それの繰り返し」
そうしたら、母が「あ〜、家事の時短グッズみたいな感じ?」と言ったんです。
Lilyはびっくりしました。でも、「そう!そんな感じ!」と言いながら、なんか涙が出そうになりました。
母の例えは、Lilyが使ったことのない言葉でした。でも、その瞬間、「あ、これだ」と思ったんです。
技術でもなく、フォロワー数でもなく——自分が面倒なことを、少し楽にするために作っている。その「楽にする」という感覚が、Lilyが作り続けている理由の核心だったんだと、そのとき初めてちゃんとわかりました。
わかりやすく説明しようとして言葉を選ぶ中で、逆に自分の中にぼんやりあったものが、くっきりと輪郭を持ちはじめた感じがしました。
正直、作る前から「なぜ」が明確な人はすごいと思います。でもLilyの場合は、作ってみて、使ってみて、誰かに話してみて、はじめて言葉になっていきました。
「ちゃんと説明できるようになってから作ろう」と思っていたら、たぶんずっと作り始められなかったと思います。作りながら、語りながら、少しずつ自分の動機に近づいていく——そのプロセス自体が、作り手としての成長なのかもしれません。
このエッセイを書きながら、あらためて思ったことがあります。コードを知らない人に説明しようとすることって、実はすごく有益だということ。
専門用語が使えないから、本質だけを残さないといけない。技術的なすごさを語れないから、「なぜ作るのか」「誰が嬉しいのか」を正直に言わないといけない。その制約が、かえって言語化を助けてくれました。
母に伝わらなかった1回目、2回目の経験は、決して無駄じゃなかったと思っています。うまくいかない言葉を試したからこそ、「家事の時短グッズ」という母の言葉を受け取れたし、「そう、そういうことだ」と気づけた。
伝えようとした回数だけ、言葉は育っていきました。
もし同じように、「自分が何を作っているのか、うまく説明できない」と感じている方がいたら——ぜひ、コードを知らない人に話してみてください。技術者じゃない友人でも、親でも、パートナーでも。
うまく伝わらなくていいんです。言い直しながら、「あ、そういう感じかも」という一言が返ってきたとき、きっと何かが見えてきます。
あれから少し時間が経って、今ならこう答えられます。
「面倒くさいことを、仕組みで解決するのが好きだから。自分が楽になると嬉しいし、同じことで困っている人が他にもいるなら、その人にも使ってもらえたら、もっと嬉しい」
たった2文です。でも、この2文を出すまでに、けっこう時間がかかりました。
完璧な動機なんてないし、壮大なビジョンじゃなくてもいいんだと、今は思っています。「自分が面倒だったから」——そこから始まっていい。それがLilyの作り方だし、たぶんそれで十分なんです。
作り続けることって、孤独なようで、実は対話の積み重ねだと思います。自分との対話、作っているものとの対話、そして誰かとの対話。その中で、少しずつ「自分の言葉」ができていく。
うまく説明できない日があってもいい。答えが出ない日があってもいい。作り続けながら、話し続けながら、少しずつ前に進んでいきましょう。Lilyはそう思っています。
Lily(@bokuwalily)― 個人開発者。AIと二人三脚で、iOSアプリやWebサービスを作っています