この記事が良かったら
「チップをリクエスト」で著者にチップの受け取り設定をお願いできます

深夜2時、部屋の明かりはすべて消えていて、モニターだけが白く光っています。画面いっぱいに色見本が並んでいます。青系と緑系の中間あたり、なんとも言えない曖昧な色。これがいいのか、隣の少し暗いほうがいいのか、Lilyはずっとそこで固まっていました。 誰かに聞ける状況ではありませんでし…
この記事が良かったら
「チップをリクエスト」で著者にチップの受け取り設定をお願いできます
深夜2時、部屋の明かりはすべて消えていて、モニターだけが白く光っています。画面いっぱいに色見本が並んでいます。青系と緑系の中間あたり、なんとも言えない曖昧な色。これがいいのか、隣の少し暗いほうがいいのか、Lilyはずっとそこで固まっていました。 誰かに聞ける状況ではありませんでした。チームも、デザイナーの友人も、プロダクトの文脈を知っている人も、深夜2時に起きているはずがない。SNSに「この色どう思いますか?」と投げることもできますが、背景を知らない人の「いいと思います」は、あまり参考にならないことを、Lilyはすでに経験から知っていました。 こういう夜、個人開発をしている人なら一度は経験があるのではないかと思います。コードの問題ではなく、もっとふわふわした、正解のわからない問題に向き合う夜。今日はそのことを書きたいと思います。
今年の3月、Lilyはあるサービスのランディングページをリリースしました。メインカラーは、ずっと悩んで選んだくすみピンク。完璧とは言えないけれど、自分の中でちゃんと納得した色でした。
リリースから4日後のことです。知り合いの個人開発者、Mさんからメッセージが届きました。「デザインきれいだね。でもピンクって、ターゲット層に刺さらなそうじゃない?」
一言でした。でもLilyはその夜のうちに配色を変えました。くすみピンクを外し、ニュートラルなグレーベースに。「そうかもしれない」という気持ちと、「早く直さないと」という焦りが混ざって、自分が時間をかけて決めた色を、たった数時間で手放しました。
結果はどうだったかというと、特に何も変わりませんでした。問い合わせが増えるわけでもなく、むしろLilyは自分のサービスを開くたびに、どこかよそよそしい感じがするようになりました。自分のものじゃない気がする、という感覚です。
もとのくすみピンクに戻すまでに、さらに2週間かかりました。
Mさんの一言は、悪意のある言葉ではありませんでした。むしろ気にかけてくれての言葉だったと思います。問題は、Lilyがその言葉を「答え」として受け取ってしまったことでした。
意見をもらうのはいいことです。でも個人開発では、サービスの文脈を完全に理解している人間は、自分だけです。ターゲットが誰で、どんな体験を届けようとしていて、なぜその色を選んだのか——それを全部知っているのは自分だけ。外からの言葉は参考にはなるけれど、答えにはならない。
あの夜から、Lilyは「他人の意見でデザインを変えるときは、必ず1日待つ」というルールを決めました。すぐ動かない。寝て、もう一度自分の目で見てから判断する。それだけで、ずいぶん流されにくくなりました。
個人開発のデザイン作業には、深夜がよく似合うと思っています。これは昼間に集中できないという話ではなくて、深夜には静けさがあるからです。
SNSの更新も止まっている。誰かに何かを届けなくていい。「これって刺さるかな」という計算が昼間よりも少し薄れて、ただ自分が「きれいだと思うかどうか」だけで判断できる時間が生まれます。
色を選ぶとき、Lilyはよく言葉が出てこなくなります。「なんかこっちの方がいい」という感覚はあるのに、それを誰かに説明しようとすると途端に難しくなる。
デザインの専門家でもないし、色彩理論をちゃんと学んだわけでもない。でも感覚は確実にあります。「この青は少し冷たすぎる」「この緑は主張が強すぎる」という感覚は、言語化できなくても本物です。
Lilyはある時期、「言語化できない判断は信頼できない」と思っていました。理由を説明できない選択は、なんとなくの選択と同じだと。でも今は違う考えを持っています。感覚を言語化できないのは、まだ言葉が追いついていないだけで、感覚そのものの精度とは別の話です。
自分の「これがいい」を、言い訳なく信じていい。その感覚を鍛えるのも、個人開発の一部だと思っています。
Lilyが今メインで動かしているサービスのブランドカラーは、今年の1月から6月の間に17回変わりました。数えたから間違いないです。途中から「また変えた」と気づいたので、メモに日付と色コードを記録し始めました。
初期は明るいコーラルピンク。途中で「清潔感がほしい」と白と紺に変えて、「地味すぎる」と感じてラベンダーに変えて、「女性向けすぎる」と思ってテラコッタに変えて——という繰り返しでした。
変えるたびに「今度こそ」と思っていました。でも実際には、変えるたびに少しずつ違和感が積み重なっていきました。
6月のある夜、Lilyはついに「次に変えたら、このサービスへの愛着が完全に消える」という感覚に気づきました。疲れ、というよりは、限界の見極めでした。
そこで選んだのが、今のくすみブルーグリーンです。「完璧にいい」とは言い切れない。でも「これ以上探すと自分が壊れる」という感覚と、「この色に、このサービスを育てていきたい」というふんわりとした決意が同時にありました。
以来3ヶ月、その色のまま動かしています。今のところ、変えたいとは思っていません。
17回変えたことを、今は失敗だとは思っていません。正確には——失敗もあったけれど、必要な回り道だったと思っています。
どの色を試したか、その色がどんな印象を与えたか、自分は何を「違う」と感じたのか。繰り返しの中で、Lilyは自分の感覚の輪郭を少しずつ知っていきました。17回変えたからこそ、「これは自分じゃない」と気づく精度が上がりました。無駄な遠回りではなく、自分の好みの地図を描いていたのだと、今は思います。
個人開発のデザインには、採点者がいません。これは困ることでもあり、救いでもあります。
プロのデザイナーがいるチームなら、「これは違う」「これはいい」という判断が誰かから来ます。でも個人開発では、そのフィードバックが来ない。自分が唯一の判断者です。
最初はそれが怖かったです。「間違えていても気づけない」という恐怖がありました。でも少しずつ、その怖さの裏側に別の何かがあることに気づきました。
くすみピンクを選んだ夜のことを、Lilyはよく覚えています。深夜1時を過ぎていて、部屋は静かで、画面の中でいくつかの色が並んでいました。誰にも確認できない状況で、「これにしよう」と決めた。
その選択は、自分だけのものでした。誰かの意見が混ざっていない。誰かの「いいんじゃないですか」に背中を押されたわけでもない。Lilyが、Lilyだけの感覚で選んだものでした。
誰にも相談せずに決めた色は、リリース後も、自分のものだという感覚が続きます。「自分がつくった」という手触りが、デザインの細部に宿っている。そしてその感覚こそが、個人開発を続けさせてくれる燃料のひとつだと思っています。他者の承認で積み上げた自信は、他者の一言で崩れます。でも自分の感覚を信じて積み上げたものは、少しずつ、確かな土台になっていきます。
今夜も、誰かが深夜に一人でカラーピッカーを動かしているかもしれません。「この色でいいのかな」と思いながら、少しずつ彩度を上げたり下げたりしている人が、どこかにいるかもしれない。
Lilyはその時間を、大切にしてほしいと思っています。
正解を教えてくれる人がいないことは、弱さではないと思います。それはむしろ、あなたが全部決めていいということです。誰かの「正解」ではなく、あなたの感覚で積み上げていっていいということです。
うまく言語化できなくていい。何度も変えてもいい。深夜にひとりで悩んでいい。
その積み重ねが、あなただけの作品になっていきます。Mさんの一言で手放しかけたくすみピンクを、Lilyが取り戻せたのも、最終的には「自分の感覚を信じる」という選択があったからでした。
正解のないところに踏みとどまって、それでも選び続けること。その繰り返しが、作品に顔をつくっていくのだと、Lilyは今、そう思っています。
Lily(@bokuwalily)― 個人開発者。AIと二人三脚で、iOSアプリやWebサービスを作っています
🎁 最後まで読んでくれたあなたへ、無料の特典があります: LINEで「自動化」と送って受け取る(実装テンプレ7本)
Lily(@bokuwalily)― マーケ組織50名規模を統括するCMOを経て、いまは個人でiOSアプリやWebサービスを作っています。集客・導線設計と、AI導入・業務自動化の相談を受けています
🖥️ 制作物・記事 → bokuwalily.com
🐙 OSS → github.com/bokuwalily
🌍 最新情報・お問い合わせ → X @bokuwalily