実際に使ってみる

旅ノート(TabiNote)
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自分を形作った旅の経験を、輪郭のある記憶として人生の足跡に残したい。写真と場所を地図で振り返るiPhoneアプリ「旅ノート」を作った背景と、開発を続けるなかで見えてきた本当の価値について書きました。
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人は、出会った人や読んだ本、そして旅の経験によって形作られる、とよく言われます。
自分にとっても、旅は単なる娯楽ではありません。
初めて見る景色や、知らなかった土地の空気、その場所で出会った人や文化。旅へ出る前と帰ってきたあとでは、ものの見方や感じ方が少し変わっていることがあります。
それだけ自分の人生を形作る大切な経験なのに、時間が経つと、そのとき何を見て、何を感じ、何を考えていたのかを驚くほど忘れてしまいます。
手元に残るのは、カメラロールに並んだ写真だけ。
写真を見れば、その場所へ行ったことは分かります。しかし、どんな順番で巡り、そこで何が起き、そのときの自分がどんな気持ちだったのかまでは、少しずつ輪郭を失っていきます。
自分を形作ったはずの経験が、「写真を撮った場所」としてしか残らないのは、あまりにもったいない。
旅の景色だけではなく、そのときの自分まで思い出せるようにしたい。自分を形作ってきた経験を、輪郭のある記憶として、人生の足跡の一つに残したい。
そう思ったことが、「旅ノート」を作り始めた理由です。
一般的な写真アプリでは、写真を日付や場所から探すことができます。それでも、一つの旅として思い出を読み返す体験とは少し違います。
同じ旅行で撮った写真が日常の写真に埋もれ、どこからどこへ移動したのかも、写真の前後で何があったのかも分からなくなっていくからです。
そこで旅ノートでは、写真だけでなく、訪れた場所、日付、メモ、同行者を「一つの旅」としてまとめて残せるようにしました。
ただし、旅行中に細かく記録し続けることや、GPSを常に動かして正確な移動履歴を取ることは前提にしていません。
旅を終えたあと、写真を選びながら思い出を整理する。その時間まで含めて、旅をもう一度楽しめるものにしたかったからです。
旅について話すとき、最初の入口になるのは「どこを巡ったか」です。
地図の上で場所と写真を巡った順にたどると、写真一枚だけを見たときよりも、その旅の流れが戻ってきます。
「ここへ行ったあと、あの店に寄った」
「この道を歩いている途中で雨が降った」
「最後に見た景色が一番印象に残っている」
場所を起点にすると、そこで起きた出来事や、そのときの感情まで連鎖するように思い出せることがあります。
旅ノートにとって地図は、訪問した場所を可視化するだけのものではありません。ぼやけていく経験に、もう一度輪郭を与えるための入口です。
開発を進めるなかで、「投稿する」という行為に対する不安も見えてきました。
投稿と聞くと、誰かに見せることや、反応をもらうことを意識してしまいます。旅行写真や位置情報が、意図せず広く公開されることへの不安もあります。
しかし、旅ノートが残したいのは、SNSで評価されるための旅ではありません。
自分だけで残してもいい。同行した人にだけ見せてもいい。誰かの参考になってほしい旅だけ公開してもいい。
そのため、旅ごとに公開範囲を選べるようにしました。
旅ノートの中心にいるのは、見てくれる誰かではなく、あとから振り返る自分自身です。
作り始めた当初は、旅の写真を地図で整理するアプリを考えていました。
ところが、記録した旅を年ごとに並べてみると、それは単なる旅行履歴ではなく、その時期の自分を映した人生の断片に見えてきました。
昔の旅を見返していると、思い出すのは場所だけではありません。
当時どんな生活をしていたか。誰と時間を過ごしていたか。何に興味を持ち、どんなことを考えていたか。
人は旅を見返しているようで、実際には、あの頃の自分を見返しているのだと思います。
そこから、記録した旅を年ごとに振り返る「人生タイムライン」が生まれました。
年が一つの章で、その年に経験した旅が本文になる。
旅ノートは、旅行を記録するアプリから、旅でつづられた自分の物語を読み返すアプリへと少しずつ変わっていきました。
思い出は、保存しただけでは見返されません。
だから、旅ノートでは「残すこと」と同じくらい、「もう一度出会うこと」を大切にしています。
記録を倉庫にしまうのではなく、時間が経ったあとに記憶を呼び戻す。
旅ノートは、未来の自分が見返したときに、初めて価値が完成するアプリでありたいと思っています。
旅ノートは2026年6月にApp Storeで公開し、9月に登録者が100人を超えました。
まだ大きな数字ではありません。それでも、自分が必要だと思って作り始めたものを、会ったことのない誰かが使い、自分の旅を残してくれている。その事実には、数字以上の重みを感じています。
一方で、アプリは作っただけでは届かないことや、登録してもらってから最初の旅を残してもらうまでにも壁があることが分かりました。
現在は、初めて使う人が迷わず一つ目の旅を残せる体験や、過去の旅も追加したくなる導線を改善しています。
目指しているのは、旅行中だけ開く便利なアプリではありません。
旅を重ねるほど、その人が歩いてきた人生が見えてくる。数年後に開いたとき、忘れていた景色だけでなく、そのころの自分の気持ちまで思い出せる。
撮るだけで終わっていた旅を、自分の人生の足跡として残していく。
そしていつか、旅を通して過去の自分にもう一度会える。
そんなアプリとして、これからも旅ノートを育てていきたいと思っています。